348980 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

聖歌は生歌

聖歌は生歌

パウロ年記念

《パウロ年 聖パウロの回心の祝日》
132 主をたたえよう
【解説】
 詩編117は、全編中最も短い詩編で、ヘブライ語ではわずか15語しかありません。1節では、全世界の民に、神
(主)をたたえるよう呼びかけ、2節は、その根拠となる、イスラエルに対する、神(主)のはからいを述べています。す
なわち、神に選ばれた民イスラエルに対する、神のいつくしみを知ることで、すべての民が、まことの神を知るように
なることがイスラエルの選びの根拠なのです。これは、『教会憲章』第1項でも言われていることです。教会も、教会
自身が存在目的ではなく、神と人類との交わりの道具であり、神の国を証してゆくことが大切なことなのです。
 この詩編は、先にもあげたように最も短い詩編で、中世初期のナポリの教会では、この詩編を覚えていることが、洗
礼の条件だったと伝えられています。また、この詩編唱では、栄唱が加えられていますが、栄唱は、旧約の詩編を新
約のキリスト者の祈りとするものです。
 さて、この「主をたたえよう」はすべての答唱句の中で、最も多くの詩編唱が歌われます。答唱句は、詩編136:1
〔131〕から取られています。この詩編は、グレゴリオ聖歌では復活徹夜祭に歌われます。八分の十二拍子の答唱
句の冒頭は、トランペットの響きで始まります。なお、『典礼聖歌』合本では、最初、テノールとバスは、H(シ)です
が、『混声合唱のための 典礼聖歌』(カワイ出版 2000)では、四声すべてFis(ファ♯)-Dis(レ♯)-Fis(ファ♯)-
H(シ)-Dis(レ♯)となっています。この、ユニゾンのほうが、力強い響きに聞こえると思います。
 「主をたたえよう」では、バスがGis(ソ♯)からFis(ファ♯)へ下降することで、ことばを延ばす間に、和音も二の和音
から四の和音へと移り、さらに「主はいつくしみ」までE(ミ)からDis(レ♯)へと深まります。その後は、旋律も和音も
落ち着いており、神のいつくしみの深さと限りないあわれみを穏やかなこころでたたえながら、答唱句は終わります。
 詩編唱は、冒頭、最高音のH(シ)から、力強く始まります。主に、詩編唱の1節全体で、一番重要なことばが多い
第三小節は、最も低いDis(レ♯)を用いることで、重厚さと、低い音への聴覚の集中を促しています。詩編唱の最後
は、主音Fis(ファ♯)で終わり、そのまま、答唱句へとつながります。
【祈りの注意】
 答唱句の旋律は、主音:Fis(ファ♯)⇒旋律の最低音:Dis(レ♯)⇒主音:Fis(ファ♯)⇒旋律の最高音:H(シ)と動
きますから、この旋律の上昇の力強さを、全世界への呼びかけの強さへと結びつけましょう。八分の十二拍子のこの
曲は、八分の六拍子の曲と同様に、八分音符ではなく、付点四分音符を一拍として数えましょう。「主をたたえよう」
の「た」を、心持早めに歌い、続く八分音符への弾みとすることで、全体のテンポが引き締まります。
 「たたえようー」と延ばす間、さらに cresc. を強めることで、呼びかけが、すべての国に広がるでしょう。このとき、
バスがGis(ソ♯)からFis(ファ♯)へ下降することで、和音が変わりますから、他の声部はしっかり呼びかけを続け、
バスは地球の裏側にまで、この呼びかけを深めるようにしましょう。その後、八分休符がありますが、この休符は、次
の「主」のアルシスを生かすためのものですから、きちんと、入れてください。
 この、「主」がアルシスで、よく歌われると、このことばがよく生かされるばかりではなく、続く、滑らかな旋律の信仰
告白が、ふさわしい表現となります。最後の「深く」の四分音符が、必要以上に延ばされるのをよく耳にしますが、そ
れでは、答唱句の重要な信仰告白のことばが、途中で途切れてしまい、答唱句全体のしまりもなくなります。ここ
で、やや、 rit. するからかもしれませんが、この rit. は、ことばを生かすためのものですから、「その」に入ったら、す
ぐにテンポを戻しましょう。あくまでも、「ふかくーその」は、八分音符三拍分の中であることを忘れないようにしてくだ
さい。
 最後は「そのあわれみは」くらいから徐々に rit. して、答唱句を締めくくります。「えいえーん」で、八分音符を五拍
延ばす間、まず、dim. (だんだん弱く=いわゆるフェイドアウト)しますが、きちんと五拍分延ばしてください。その間、
作曲者も書いていますが「神様のことを」、神のいつくしみの深さもあわれみも永遠であることを、こころに刻み付けま
しょう。最後の「ん」は、「さーぃ」と同じように、「え」の終わりにそっと添えるように歌います。
 2009年の1月25日は、聖パウロの年(パウロ年)の特例として、典礼秘跡省が、1回に限り、年間第3主日のミ
サではなく、聖パウロの回心のミサを行うことを許可しました。第二朗読は年間第3主日の第二朗読が読まれます
が、それ以外は、聖パウロの回心の朗読になります。
 さて、第一朗読では、ダマスコにおけるパウロの回心の場面が朗読されます。この場面は、何度読み返しても感動
的なところです。主キリストご自身からの呼びかけの声を聞いたサウロは、それまで迫害していたナザレ派の急先鋒
として、会堂でイエスがメシアであることを告げ知らせます。さらに、ユダヤ教内で、迫害どころか、殺害の恐れが出
てきてからは、当時のローマ帝国を歩き回り、ユダヤ教以外の多くの人びとに、すべての人の救い主である、ナザレ
のイエス、主キリストを告げ知らせました。福音朗読でイエスが語る、しるしも、パウロがマルタ島で行ったことです
(使徒28:1-10)。
 今日の詩編のことばは、まさに、パウロの願いそのものですが、実は、イスラエルの出エジプトという出来事と、約
束の地への入国という出来事を通して、諸国民に示されたものでした。解説でも書いたように、教会は、神と諸国の
民との親しい交わりのしるしであり、神と人、人と人の一致のための道具です。その意味で言えば、パウロの回心が
劇的であった分、もう一人、神の呼びかけに応じて、パウロに手を置いていやした、アナニアの姿は、地味ですが、教
会の確固とした姿勢を表しているのかもしれません。すべての民に福音を宣べ伝えるという宣教共同体である教会
では、パウロのような人もアナニアのような人も重要な役割を持っています。両者の共通の願い、祈りが、今日の詩
編の祈りであることは間違いがありません。
【オルガン】
 答唱句の音型から言っても、祝日の朗読から考えても、明るく、諸国の民への呼びかけにふさわしいストップを選び
たいものです。とはいえ、やはり答唱詩編ですから、フルート系とプリンチパル系を組み合わせるか、フルート系だけ
なら2’を加えるなど、明るさと力強さの中にも、答唱詩編の性格を示すようなストップ構成を考えてみましょう。前奏
には、トロンペーテ(トランペット)あるいはクルムホルンなどのリード管を使ってみてもよいかもしれません。ただ、あ
まりにも音量が強いときには避けましょう。
 答唱句が活き活きと歌われるようにするには、前奏が最大の鍵となります。祈りの注意で書いた、幾つかの注意点
をしっかりと前奏で提示することが大事です。オルガンの前奏が、答唱句を活き活きさせるか、だらだらさせるかを決
めてしまうのですから、まず、しっかりとこの答唱句の祈りを、声を出して歌うようにしましょう。




© Rakuten Group, Inc.